過酷な露天風呂
1年の疲れを癒そうと、秘境の温泉に行くことになった。秘境の温泉。なんと素敵な響き。人里離れた静かな温泉地でひっそりと過ごす休日。なんと優雅。わくわくしながら奥鬼怒へ向かった。
最寄りの駅に宿の送迎バスが到着。なんとここから宿までバスで2時間かかるという。さすが秘境の地である。バスに乗り込むと、ひたすらにただひたすらに山道を登っていく。
高度があがると、道が舗装されていないらしく、バスががたがた揺れる。山道をくねくねと曲がるたびに乗客は右に揺れ、左に揺れ。私は乗り物に乗るとどんな状況でも寝てしまうという特異体質なため、激しく揺れるバスに応じてかなりアクロバティックな格好で寝ていた。
ふと起きるとそこは雪国だった。ついでに首も腰も痛かった。
え、雪が降っているの。東京は暖かかったんですが。思っていたのとちょっと違うみたいだ。
バスを降りるとあっという間に雪がわが身に降り積もっていく。身を切るような寒さだ。
お部屋にはがんがんに暖房が入っていて暑いくらいだが、これではなかなか外に出る気になれない。
さて、肝心の温泉はどうか。一面の雪の中に湧き出る、露天風呂。猿でも浸かっているイメージだが、これが想像を絶する過酷さだった。
まず、露天風呂にたどり着くまでに浴衣姿で外を歩かなければならない。宿のスリッパから玄関に置かれているサンダルに履き替えようとすると、サンダルが凍っていて靴箱にはり付いており、はがれない。なんとかむしりとるようにしてサンダルに足を通すと、冷たいを通り越してじんじんと痛い。信長の草履を懐で温めていたという豊臣秀吉のありがたみを痛感する。私のもとにもカモン、秀吉!
雪の降りしきる中、小走りで屋根のある場所に向かう。そして、外気がびゅーびゅー入ってくる脱衣所で裸にならなければならない!尋常ではない寒さである。年に数人はここで心臓発作を起こして死んでいるんじゃなかろうかと思いつつ、勢いよく脱ぐ!脱いだら外に出る!雪が降っている!自分の体に雪が積もる前にすばやく湯に浸かる!熱い!でも寒いよりまし、とにかく浸かる!!
浸かってしまえば、はー、極楽極楽。なんとも眺めの良い雪見風呂である。ただし、頭は凍りそうなほど寒い。そして、この後待っているのは…今たどってきた道を引き返さなければならないという厳しい現実との直面!
秘境の地の雪見風呂は、私のような温泉初心者には少々過酷すぎた。